未来を盗んだ盗賊

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未来を盗んだ盗賊

 俺は、自他ともに認める極悪人だ。
 だまし、盗み、腕力ずくはお手の物だ。俺に逆らってあの世の入り口を見た奴は、両手足の指の数でも足りやしない。
 俺は好き勝手、やりたい放題、毎日楽しく生きてきたのさ。
 だがな、そんな俺でも困ったことができたんだ。
 俺は他人にヤられるほど間抜けじゃない。とはいえ、どうしても逆らえない物があることに気づいたのさ。

 それが、死と老いだ。

 毎日楽しく……だけではその辺の小悪党とかわりゃしない。俺が奴らと違うところは——そう、未来を神とやらから盗んでやろうと思ったのさ。

 どうだ? なかなかイイだろ?
 え? それじゃあよくわからねぇ? 莫迦かアンタは。
 話の流れって奴をよく考えてみろよ。
 俺は、神から『不老不死』を盗んでやろうと思ったと言っているんだよ。

 おぉ、おぉ、イイ顔してるぜ。
 アンタ、俺を莫迦だと思っているんだろう?
 そんなこと、あるものかよ。
 その証拠に、ホレ、ここに神から盗んできた不老不死の秘薬がある。

 どうだい? アンタも俺と同じにならないか?

 はっはっはっ。いい、いいぜ、その顔。さっきまで盗んでやると言っていたのに、もう盗んできた、不老不死になったと言ってやがる、とか思っただろう?
 もっと、俺をおかしな奴だと思っている。だがね、これは本物だし、俺はすでに不老不死さ。
 ただ、ちょっとした副作用があってだな……って、オイオイ、席を立つな。それみたことか、って顔をするなよ。
 本当にちょっとした副作用さ。なにせ、この秘薬を飲めば不老不死になる代わりに『善人』になってしまうのさ。困ったもんだろ。俺は永遠に悪事を働きたかったのに、コイツのおかげで毎日善行を積んでいるというわけさ。

 まったくもって、もったいないったらないぜ。
 なんで、この、俺が、神や坊主のように善いことをしなきゃならないんだ……。
 ところで、どうなんだ? アンタは善人なのかい?

 だったら、ここはひとつ試してみないか?
 なに、神のつくった代物だ。これを飲んだからって、善人が悪人になるってことは、ありえんよ。それに、仮にアンタが悪人だったとしても不老不死にはなれるんだ。まったく神も大した代物をつくったものさ。不老不死の善人を作りだせるってぇんだから。

 なに? まだ疑うのか? 仕方ねぇなぁ。
 金? そんなものいるかよ。俺は善意でやっているんだぜ。あくまで善意。なにせ、その秘薬を飲んだんだからな。

 ——ふぅ。じゃぁ、いいさ。他をあたるさ。
 あぁ、そうか。
 アンタは、俺と同じ極悪人なんだな? だから、俺が外に出たら殺して奪おうと思っている。
 いいぜ、わかった。この秘薬を置いていくさ。ついでにここの支払いもしてやろう。ついでのついでだ、マスターに一杯おごっておいてくれ。
 じゃあな。

 そうして、俺は不老不死になったというわけさ。
 え? その時の極悪人に感謝してるかって?
 そりゃあ、感謝してるさ。こう見えても、俺は百年かそこらは生きている。清く、正しく生きてきたのさ。

 なに? アンタも不老不死になりたいって?

 うぅ——む、悪いが、俺はアンタに秘薬を勧めるつもりはない。面白い身の上話を聞かせてくれというから話しているのであって、俺に秘薬を勧めてくれた奴のように他人に勧めるつもりはないんだ。これは、善意で言っているんだぜ。
 あぁ、ホラ話と思ってくれるならその方がいい。その方が幸せさね。

 ——まったく、仕方ない奴だな、アンタも。
 じゃあ、飲むがいいさ。これが秘薬だ。

 おっと、待て! コイツには副作用がある。知ってると思うがまぁ、聞け。
 これを飲めば不老不死になれる。だが、飲んだ奴は善人になってしまう。この意味をよく考えてくれ。俺は神様からこれ以上しゃべっちゃいけねぇと言われているんだ。

 いいか、これは俺の善意だ。三度目だが、俺は勧めないし、善人になってもいいことはないぜ。俺は善意で止めているんだ——って、オイ、飲んでしまったのか。

 そうか——飲んでしまったんだな。
 じゃあ、アンタにも俺の肩に死に神が乗っているのが見えるよな。
 そんなに驚くなよ。え? 三匹いる? オイオイ、匹はないだろう? この方たちは神様なんだぜ。
 アンタの肩にも死に神がお三方憑いたな。

 そうさ、この秘薬には副作用があってな。
 一日に三つの善行を行い続けなければ、不老不死ではいられないのさ。さぁ、一日は長い。寝ずに善行を積めば、一日三つくらい、善意を施せるさ。

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【著者より】
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ABOUTこの記事をかいた人

Makoto Saito

作業療法塾塾長、臨床共育マネジメント主宰、IAIR副会長! 精神科作業療法士として13年臨床経験を重ねたのち、起業。臨床教育を共育にCHANGEするというビジョンのものと、療法士の育成に人生の全てを懸けている。 また、臨床共育メンター®養成として、臨床指導者や管理職向けの講義、コーチングも行っている。